ウィーン

総括もこれでラスト。途中で文体が変わったりしてとても読みづらい文になっていたと思いますが
日記をそのまま書いたものとちゃんと読むことを考えて文体を整えたものとの違いです。ご容赦ください。
それでは、はじめます。



3/11 ウィーン



後期の滞在先がミュンヘンに決まってから絶対に行こうと心に誓っていた憧れの街、ウィーン。
建築も、絵画も、音楽もすばらしいものばかりでした。


朝、オペラ座のチケットを買いにいくも、空いてる席は異常に高額であることを知り、断念。同時に翌日立ち見でオペラを楽しむことを決意。そのまますぐ近くのカールスプラッツへ。
オットー・ワグナーの駅舎、カールス教会、オルブリヒのゼツェッシオン館を見学。
カールス教会は僕にとって初めての本格的なバロック教会でしたが、楕円という形態は非常になまめかしい形態なのだなあと感じました。
ゼツェッシオン館のファサードの構成はカールスプラッツ駅のそれに似ていますが、僕としては白いプラスター仕上げで「面」を強調しているゼツェッシオン館のほうが美しいと思いました。
僕はどうやらこの「面」の感覚が好きなようです。
ゼツェッシオン館の大きな展示室を見たときに即座に師ワグナーの郵便貯金局のトップライトが想起されましたが、それよりもずっとモダンな光の入れ方、柱の立て方であったように思います。
ユーゲントシュティールの中に眠るモダンの萌芽をみてとることができます。
そしてなんといってもすばらしいのが、地下に展示されているベートーベンフリース。
僕は実はグスタフ・クリムトが大好きだったりしますが、うわさにたがわぬ名作。
一時間くらい見続けてもぜんぜんあきませんでした。


次はマジョリカ・ハウス。隣の集合住宅とあわせて、非常に豊かな表層が作り上げられています。
特にすばらしいのは、いくら絵による装飾が施されていても面はあくまで面として扱われている点です。
ユーゲントシュティールは皮膜をはがしたら「モダン」になる「プレ・モダン」の建築ですが、皮膜をはがしたら「モダン」になるという点で「ポスト・モダン」的であるともいえます。
そして皮膜をはがしたら「モダン」になるというのは現代建築にも当てはまります。
そういうわけで僕はマジョリカ・ハウスに現代に通じる皮膜感覚を感じました。


ちなみにマジョリカハウスの前にある駅舎は思いがけずワグナーの作品でした。得した気分です。(というか地下鉄U4の駅舎はワグナーの手によるものが数多く残っていたりします。)


その後、ミュージアムクウォーターで建築関係の展示へ。この時ウィーンの建築マップを手に入れ、ヌーヴェルやH&deMの作品がウィーンにあることに気づき、さっそくヌーヴェル作のガス・メーターへ。
19世紀に作られた4基のガスタンクをリノベーションしてショッピングモール、オフィス、学生寮、住宅にしようという非常に野心的な計画です。
ただし空間に関しては、もっとガスタンクの巨大な空間を活かした巨大なアトリウムがあればいいなあと思いました。
住宅のある高層部とショッピングモールのある低層部との間にガラス屋根がかけられているのですが、それがせっかくの巨大な一室空間を分割してしまっているのです。
住宅が外気に接しなくてはならないという条件が決定的に作用した結果だとは思いますが、
外気は通すけど雨は通さないような屋根が最上部にひとつ架かっていたらもっとよかったんじゃないか、などと思ったりしました。
とはいえ、リヨンのオペラ座の時のように、さまざまな与条件をまとめるのが非常にうまいな、という印象を受ける作品でした。


市街地へ戻り、ロースハウス・レッティろうそく店・シューリン宝石店Ⅰ・Ⅱへ。
ロースハウスは装飾こそないものの非常に古典的なファサードの構成です。
そして三層構成の基壇部分は大理石でできていて、非常にリッチでした。
絢爛豪華なバロック様式の王宮の目の前にこのような建物ができたという事実が意味するところは大きかったのでしょうが、
現在の視点から見るとロースハウスはミヒャエル広場に非常によくなじんでいるという印象を受けます。
装飾を断罪しながらも過去との連続性はしっかり保たれているからこそこのような印象を受けるのでしょう。


すぐ近くのハンス・ホラインの宝石店Ⅰ・Ⅱ&ろうそく店へ。
特にレッティろうそく店とシューリン宝石店Ⅰが秀逸です。
両者ともファサードを単なる外装としてだけではなく、900〜1200程度の幅を持った層として作っている点が決定的であると感じました。
建築家でもなく、インテリアデザイナーでもなく、その中間のような感覚を持っていないと決して作ることのできない作品です。
「建築」の領域のみに閉じこもっていてはだめだなと思わされ建築でした。


次にロースが内装を担当したカフェ・ムゼウムへ。
抑制の効いた静かなデザインで、レッティろうそく店より「建築家的」な内装であると思いました。
ここではじめて「アインシュペナー」というコーヒーを体験。甘党(であると同時に辛党)である僕にとってはたまりません。


次に待望のアメリカン・バーへ。
欄間に張り巡らされた鏡はかなり効果的に内部空間の質を向上させていて、実際よりも何倍も大きな部屋にいるような錯覚を覚えます。
人の身長よりも高い部分に鏡が張り巡らされていて、しかもバー特有の薄暗い照明も手伝って、鏡が鏡として意識されないようにデザインされている気がしました。
しかもこの空間が天井が低く抑えられた(高さ2m、幅900くらい)エントランスをくぐった後に広がるので、なおさら広く感じられます。
ビールを飲んでゆっくりすごす。


ホステルに帰ったらH君に再会。同じ日にウィーンにいることは知ってたけどまさか同じ部屋にいるとは。ほかの日本人もふくめてしばらく雑談。早めに就寝。



3/12 ウィーン



朝、感動した建築に出会ったときはいつもそうするように、レッティろうそく店とシューリン宝石店Ⅰを再び見学。
その後、ワグナーのインペリアル・パヴィリオンへ。楕円の開口や屋根がバロックの影響を物語っています。オルブリヒよりも強く様式の影響を受けていたのでしょう。


次は美術史美術館へ。カラバッジオフェルメールブリューゲルルーベンス、テルエニスなどの作品が特に印象に残りました。
オランダ・ベルギー系の作品が大量にあるのが不思議でしたが、ハプスブルグ家の支配がブリュッセルまで及んでいたことをあたらめて気づかされました。
そういえばブリュッセルはリンクの存在といい規模といいウィーンのコピーといった趣があります。
もしかしたらブリュッセルはウィーンを参考にしてつくられたということもありうるのではないかと思いました。
そしてこの美術館のどの絵よりもすばらしいのがクリムトの壁画です。思わず絵葉書を買ってしまいました。


その後ヴェルヴェデーレ宮のオーストリア・ギャラリーへ。カフェでシュニッツェルとメランジェで腹ごしらえ。シュニッツェルはミュンヘンのものとはちょっと違う味でした。
ここにきたのはもちろんクリムトを観るためです。「The Kiss」は噂にたがわぬすばらしさでした。やはり1時間くらい観ていても飽きませんでした。


オペラが始まるまでの間をワグナーの水門を見学することでつぶす。
改修工事中で近寄れませんでしたが、遠めに大理石が銅の釘で留められているのは確認できました。


そしてオペラへ。舞台装置も歌声もすばらしかったです。そして何よりも幕が下りてもまったく鳴り止む気配を見せない拍手が印象的でした。
かれこれ30分間は拍手が続いていました。そしてその拍手に応えて何回も挨拶に出てくる役者さんたちの笑顔はとても充実したもので、うらやましいと思いました。


その後ホステルへ帰り、同室に宿泊している国土交通省に今年の4月から入省予定の東大法学部学生と知り合いに。
こういうつながりはできるだけ大事にしていきたいものです。



3/13 ウィーン



朝、同室に宿泊する他の日本人と意気投合し、なぜか朝から将来会議。一方的にしゃべってしまいましたが彼も楽しんでくれたようです。
10時ころ、ヴィトゲンシュタイン・ハウスへ。何か変な違和感を覚えるなあ(決して嫌いではないけれど)と思っていたら、窓のプロポーションがすべて1:2でした。
このプロポーションはいったいどのようにして決定されたのでしょうか。
答えは見つかりませんでしたが、何らかの哲学的根拠があるのだとしたら、哲学と身体感覚には関係があるということになり面白いかもしれないな、と思いました。
たぶんそんな関係はないだろうとは思いますが。


その後、すぐ近くにあるフンデルト・ヴァッサーハウスとクンストハウス・ウィーンへ。
ファサードのあまりのカオスぶりをみて、すぐにブリュッセルで見たルシアン・クロールの学生寮が思い出されましたが、あのとき感じた拒否反応はありませんでした。
両者とも「不確定性」あるいは「多様性」をテーマにしていますが、拒絶反応のある無しはどのような根拠にもとづくものなのでしょう。
どうやら僕は不確定性を「デザイン」としてやられているのはだめだけれども、「アート」としてやられている場合は許容できるようです。
クンストハウスに付属しているレストランで昼食。ハムエッグとブラウナーはとてもおいしい。ウィーンは何を食べてもおいしい。


そしてついに、ウィーン最大の目玉、オットー・ワグナーの郵便貯金局へ。
まず外装の大理石銅釘留めがあまりにも美しい。すばらしい皮膜感覚です。現代でも通用しそうな時間を超越した質を感じます。
そして有名なホールへ。トップライトはほとんどモダンですが曲線的な形状にまだバロックの影響が見えた気がします。(ゼツェッシオン館と見比べてみるとその感はますます強まります。)
細かい模様の刻まれたスリガラスによって徐々に消えていくように見えるトラスの幻想的効果はファサード同様、現代的視点からみても感動的なものです。
あまりの気持ちよさに時間を忘れ、閉館までいてしまいました。翌日また訪れることを決意するほどよかったです。


次は建築マップでたまたま見つけて気になっていた三位一体教会Kirche zur Heiligsten Dreifaltigkeitへ(http://de.wikipedia.org/wiki/Fritz_Wotruba
なんだか今でもコンペでみかけそうな作品でなかなか面白かったです。市外から遠くて行くのがたいへんでしたが。


市街地に戻り、カフェ・コンディトライでザッハー・トルテとアインシュペナーで腹ごしらえ。


その後、コープ・ヒンメルブラウ設計のライス・バーへ。壁から飛び出しているキャンティ・レバーの照明兼グラスホルダーがとてもよかったと思います。
この作品はレッティろうそく店同様、「建築」と「インテリア」のちょうど中間に位置づけられるような作品であったと思います。


その後勢いでアメリカン・バーではしご。何回来てもいいバーです。


夜は酒が入っていたので早めに就寝。



3/14 ウィーン→ミュンヘン



朝、キルヒェ・アム・シュタインホフ(シュタインホフの教会)へ。
改装工事中で中には入れませんでしたが、ここでもあの銅釘留め大理石の外装は感動的でした。ワグナーは僕の中でミース・コルに比肩する天才です。
ゼツェッシオン的な銅像の配置やポージングも雰囲気をよりいっそう高めています。クリムト大好きな僕としては中にあるクリムトの作品を見たくて仕方ありませんでしたが
次回にとっておくことにしました。ウィーンは今回の留学でおとずれた街のなかではロンドンに勝るとも劣らないすばらしい街です。きっとまた来るでしょう。


再び郵便貯金局へ。この建築に出会えたことはミースのナショナルギャラリー、コルビュジェのロンシャンに出会えたことについで、
今回の留学の最大の収穫のひとつであることを確信しました。
前回はホールに入った瞬間にゼツェッシオン館を思い出しましたが、今回はピアノのバイエラー財団を思い出しました。
バイエラー財団と違って自然光を調節するためのハイテク技術は使われていないというのに、曇りでも晴れでもほぼ同質の光が作り出されていました。
外に出て再び大理石の皮膜を見学。やはり美しい。


またまた閉館とともに追い出されてしまい、時間が余ったのでH&deM設計の集合住宅へ(名前は忘れました)。
ものすごく細長い二層の連続住宅が微妙にうねりながら配置されていますが、微妙なうねりはあまり効果的ではないなと思いました。
中に入れていないのでなんとも評価しづらいところです。


再び市外へ戻り、早めの晩御飯。シュニッツェルとメランジェでおなかいっぱいになったのにもかかわらず、もうこんなにうまいコーヒーとトルテを食べる機会もなかなかないので
さらにカフェ・コンディトライへ。またメランジェとトルテをたべてさらにおなかいっぱいに。


おなかいっぱいの幸せをかみしめつつ列車でミュンヘンへ。


そんなこんなで旅行の全工程が終了しました。収穫の多い、充実した旅行でした。