横須賀美術館で気になるのは、なんと言っても 穴 です。

この円形の穴は、船の開口を思わせます。


開口の外に現れる風景は、どこか違う世界であるかのように感じることが出来ます。
ちょうど、船の鋼鉄の胴体に開けられた円形の窓から、海の中を覗き込むような気分で。


そういうことを思うのも、まず立地が海辺であり、建物の目の前をたくさんの船が行き来しているから。
そしてその風景を効果的に眺めることができるように、建物と海岸の間には芝生によって十分な引きがとられています。
また、収蔵されている作品にも、海や船を題材としたものが多いので、よりこの建物が「船のようなもの」としてみえます。


この円形の窓から海を行きかう船が見えたり、鉄板のスキンの隅部が丸くおさめられたりしていて船の胴体のように見えたりすることが、
この建築を船のアレゴリー*1として解釈させることを、より助長します。


屋上は、第二の水面を暗示している ように見える。


外部環境に対して開くと言うときに、ガラス面の大開口によって直接的に接続するという方法もある一方で、
横須賀美術館のように、モノに暗示的に込められた意味によって建築を環境に対して開くということがありえる。




多摩美図書館では架構のシステムはアーチのアレゴリーでできている。

あるいはアレゴリーというにはあまりにも直接的かもしれない。


プランで見ると流動的な空間が、「アーチが連続している」と思うと驚くほど分節される。
平面も断面も微妙にゆがんでいるのでもっと気持ち悪い空間体験なのかと思っていたら、それどころかこの曲線はとても心地よいものだった。
これも、「アーチによってかこまれた、すこし歪んだ四角い架構の単位の繰り返し」で空間ができていると認識するから、観察者が勝手にゆがみを補正してしまう。だから曲線が気持ち悪くないのだ と考えることも出来る。


アーチや船といった、すでに人々の記憶に刷り込まれて定着している意味を用いると、観察者の心理に何らかの作用を及ぼすことができる。


意味作用を、建築や空間の体験をよりよくするために使用することの可能性は、もっと注目されてもよい気がする。

*1:寓意:ある意味を、直接には表さず、別の物事に託して表すこと。また、その意味。