リヨン〜バーゼル

三月編、行きます。


3/1 リヨン→バーゼル


朝一でラ・トゥーレットへ。
難解な建築だと聞いていたのでどんなものかと楽しみにしていた作品。
結論から言うと、そこまでよさがわかりにくいかな、といった感じ。素直によいと思えた。
作品全体を通して、光の取り入れ方へのこだわりがみられる。
教会はもちろん、小さい礼拝堂やただの廊下の光の入り方も胸を打つものがある。
問題の幅1.8mの極小住戸をファサードから確認。同じ単位が繰り返されているように見えるが、たまにヴェランダがつながっていて幅3.6mの幅の住戸になっている。
この手法は神奈川県庁舎で村野藤吾がやっていた手法だ(たぶん)。
なるほど原型はここにあったのか。


極小の住戸が一階と二階(日本で言う二階と三階)にあって、それを補完する共有の部屋(食堂や礼拝堂や教会や会議室や図書室や・・・etc)がそれより下のレヴェルにある。
ひとつの建築の中にすべての機能が詰まっていて、いわばひとつの小さな都市といった趣がある。
こういう共有の空間は強いコミュニティが存在しないとなかなかなりたたないものだけど
この建築は宗教という強い力に縛られているコミュニティのための建築なので、うまくいっているのだろう。
ユニテもひとつの小さな都市として作られていたが、共有の空間はあまり狙い通りに使われてはいないみたいだった。
幼稚園も体育館も使われてなかったし商店街があるとされている階は今はホテルの個室とレセプション、ラウンジになっていて居住者のためのものではなかった。
今のフランス人のライフスタイルには少なくとも合っていない。
ひょっとしたらできた時から合ってなかったのかもしれない。


内部を一通り回り、食堂で修道士さんのためのコーヒーメーカーを無断でつかってコーヒーとパンをいただいたりしたり、行くなといわれた住戸部分にもしっかり侵入したあと、外をぐるっと回って中庭へ。


この中庭の雰囲気は不思議である。一見カオスのような、それでいて統一感もあるような。
ある種の町並みみたいなものができていると感じた。
人為的にヴァナキュラーなものができている。時間を超越した質を感じる。
コンクリートのごつい梁に頭を思いっきりぶつけてしまったりしながら満喫。


その後、リヨン市内に帰りバーゼルへ。夜バーゼル着。


3/2 バーゼル


この日はたくさん見たので箇条書きで。


セントラル・シグナルボックス
シグナルボックス
機関車車庫


いずれもH&deM。面白いのは、シグナルボックスは近寄ってみると銅板と木材が見えて、結構原始的で安普請なディテールだったということ。
ロンドンで見たレイバンダンスホールを見たときも同じ感想をもった。
彼らは素材そのものに対する興味を通り越して、素材によってうみだされる「現象」を追求しようとしているということを実感する。
写真に撮るとモアレを起こす建築なんてそうあるもんじゃない。しかもそれを狙って出すってのがすごい。
学校の課題ではぜったいに生まれない類の建築である。いい刺激になった。


バーゼルスタジアム
シャウラガー


これまたH&deM。スタジアムはあまりよくなかった。(たぶん)ポリカーボネートでできた外皮はやっぱり安っぽい。表参道のプラダの原型はこれか、といったかんじ。
試合のチケットを買おうとしたけどバーゼル滞在中にはゲームが無いと知って断念。
でも中田浩二のおかげでFCバーゼルのおじさんがやさしくしてくれた。
ありがとう中田浩二(あまり好きじゃないけど。)
シャウラガーは休館でがっかり。これから半年間くらい閉館し続けるらしい。
どうやって経済的に成り立ってるんだろう?ギャラリーはおまけでたまにやってますという感じの美術館らしいけど。


シャン・ティンゲリー美術館


つづいてマリオ・ボッタ。あの独特な円弧を二つ組み合わせた形のトラスがある美術館である。
部分部分の空間はいいけれど、全体のシステムが明快でないのが気になる。好みの問題かもしれないけど。
ファサードから見えるトラスと壁のシステムが奥まで続いているものだと思っていたら、実はそうではなかった。
壁もほとんど開口があけられていて構造的にもあまり重要でないみたいだ。
徹底しないシステムをなぜファサードで強調するのか、ちょっとよくわからなかった。
ただ、ティンゲリーの展示は意味もなく楽しい。意味がないから楽しいのか。


バイエラー財団


次はレンゾ・ピアノ。自然光の加工・調節をやらせたら天才的である。こんなやわらかい自然光の入り方を見たことがなかった。
この日の天気は晴れるか、雪が降るか、あるいは晴れながら雪が降るか、といういまだ経験したことのないぐちゃぐちゃなものだったが、展示空間の光の量はいつもほぼ一定。
外からの直射光を感知して全自動で作動するロールカーテンには驚く。すみずみまで設計されている。
建物の構成がかなり明快にわかる建築で、システムの徹底の仕方とそのくずしかた、敷地へのあてはめかたはプロっぽい感じ。
エレベーションをみれば一目で建物の全貌がつかめる。
シャン・ティンゲリーと似たようなエレベーションでありながら、自分的には断然こちらが好きである。


シュッツェンマット集合住宅


またまたH&deM
「開くか閉じるか」という、都市において住宅を設計する際にさけて通れない問題に対する一つの解答。いろいろ考えさせられた。
重厚なアール・ヌーヴォー的な鉄のカーテンの内側は全面ガラス張り。これは住める人と住めない人がわかれる住宅だろう。
自分はこういう外に開かれた空間でも快適に住める自信があるし、そいういう人は結構いると思うんだけど(実際この集合住宅はすべて埋まっている)、そうでない人もかなりいるはず。
内側からこのカーテンを見ると、ほとんど向こう側の建物は気にならなかった。
ただこれを見たときは昼だったので、外のほうが中より明るく、プライバシーが漏れる心配はほとんどない。
問題は夜である。内部が外部より明るくなったとき、いったいどの程度外からみえてしまうのか。
しばらく住んでみないと正しく評価できない集合住宅だと思った。
ただ、そういうぎりぎりのところを狙っていく姿勢には強く共感する。
これも学校の課題でやったとしてもなかなか表現できない類の建築。
まったく違う思考回路で設計に臨んでいるんだなと思った。その思考回路を知りたいなとも思った。


余談ですが、この建築の鉄のカーテンの模様がバーゼルのマンホールの模様にそっくりだから、このマンホールも彼らの設計かと勝手に思っていたら逆で、実はH&deMがこのマンホールの蓋にインスピレーションをうけてあの鉄のカーテンを作ったらしい。あんなおしゃれなマンホールの蓋、日本ではありえない。



この日はこれで終わり。



それでは続きはまた明日。